長東日誌 在日韓国人政治犯・李哲の獄中記 |
韓国の軍事独裁政権時代に、捏造された「在日同胞留学生スパイ団事件」で死刑判決を受けた著者が、13年におよぶ獄中生活を経て出所後、幼い娘、息子に父がどう生きたかを残そうと、獄中記を書き上げた。
自白を強要する凄まじい当局の暴力、獄中で展開した人権闘争などが、今、40余年の封印を解いて明かされる。口絵カラー7ページ。「長東(チャンドン)」とは、朝鮮半島から見て長い東で、日本列島のことを指す。 |
|
長東日誌
李 哲 (著) |
四六判 416ページ 上製 |
定価
(本体3,500円+税 ) |
ISBN978-4-86249-412-2 |
2021年6月 刊行 |
|
目次
序 章 在日韓国人二世として生まれ
幼少時代/中央大学コリア文研/初めての母国訪問
第1章 在日同胞スパイ団事件と死刑判決(1975年12月~79年8月)
母国留学と在日同胞スパイ団事件/拷問と強制自白/西大門拘置所/転房/学生と民主人士たち/検事の取調と閔香淑の拘束/聖書との出会い/初めての出廷/最後の陳述/カトリックの洗礼/控訴審/二回目の死刑宣告/金寿煥枢機卿の講話
第2章 西大門拘置所での生活(1976年5月~79年8月)
一般囚たちとの雑居房生活/獄内の一日はラッパの音で/仁王山の木鐸の音色/食事/カルチャム/拘置所の沐浴/獄中の寒さ/ある民主人士/手錠に錠前を/悪魔の朱部長/同房の一般囚たち/新入式/真の学問/プロの夜間スポーツマン/「要視察」/死刑執行
/洪春基/死刑囚の方々/死刑執行を嘆した死刑囚/死刑場/アボジの思い出/李泳禧先生と金芝河氏/初めての闘い/ついに勝利!/懲罰房/大きな教訓/閔香淑の移監とロザリオの交換
第3章 忘れられない人々(1977年3月~79年8月)
贋硬貨鋳造の罪/「無等山ターザン」朴興塾/前科七犯の言葉/諧謔/殺人魔の怖さ/光州の閔香淑/在日同胞の朴順兆氏/朴順兆氏の後日談/離婚の話/夢の話/棺桶に私の名前が/朴玄埰教授/高麗大学生李範氏/突然の呼出し/減刑/閔香淑との面会/移監
第4章 大田矯導所第六舎(1979年9月~81年11月)
大田矯導所「特別舎棟」/『我生きんと欲すれど』/救援運動の友人たち/非転向長期囚の先生方/人民革命党事件/林久鎬氏の父上/崔健錫氏/赤い星事件/孫聖洙氏/南朝鮮民族解放戦線/大田第六舎の「一〇・二六事件」/思想転向工作専担班/転向工作の暴行/特舎の映画鑑賞と元同志の反共講演/オモニの死去/オモニの思い出/オモニの名前/一九八〇年、五・一八/先生方の有難さ/六舎の獄中闘争/打電/「万歳」反共法と無線機事件/金大洙博士/金東起先生の話/検房/キムチ事件/転向書と減刑
第5章 書画班時代(1981年11月~85年7月)
三清教育隊/醇化教育/警備矯導隊/宗教の集会/林矯導官と宋矯導官/一般在所者たち/ホジュキ老人/静香・趙柄鎬先生/陸軍保安司令部と中央情報部/陰謀/長東という号/申栄福先生/自分にとって捨てるもの
第6章 波乱の時代Ⅰ(1985年7月~85年12月)
大田から大邱へ/大邱7・31事件/闘いの始まり/地下室での暴行/連行と取調べ/再結集/断食闘争/呼び出し/再度の呼び出しと面会/勝利の確信/大邱の仲間たち/閔香淑の働き/民統連への抗議/民主化実践家族運動協議会と趙萬朝オモニ/スパイ事件の正面突破/五人小委員会/民主化運動の起爆剤に/新たな準備/再度の断食/金寿煥枢機卿と民主人士の訪問/保安課長の哀願/副所長の追及/変化の兆し/新聞の報道/大きな勝利/勝利の祝宴/所長の謝罪/教務課の対応/ある矯導官の言葉/大邱の春と南一満先生の還暦/運動会/鄭鎮寛氏/朴燦鐘弁護士/三人の代子/またもや移監/私にとっての「大邱七・三一事件」
第7章 波乱の時代Ⅱ(1985年12月~88年10月)
大田の閉鎖独房/再び書画班へ/徐勝兄との出会い/「ショパター・ドリンク」/光州へ/隔世之感/光州での断食/学生たちとの共闘/秘密の文書/私の「光州事件」/金栄の投げた言葉/密告者の運命/懲罰一ヶ月/またまた移監/金長浩氏の入れ歯/安東での再会/安東の処遇改善/金相哲の移監/交渉/老部長との再会/大統領選挙と両金氏/金泳三政府の弾圧/炊事班長からの知らせ/ついに、ついに出所!/正門に向かって
終 章
明洞聖堂の結婚式/在日韓国良心囚同友会と主な活動/再審裁判と無罪宣告/民主化運動の一握りの肥やし/旧西大門拘置所の展示室/第三回「民主主義者金槿泰賞」受賞とモラン公園墓地/文在寅大統領の謝罪の言葉
李哲関連年表/救援会関連年表 |
|
前書きなど
私は最初この獄中記録を六歳と四歳の幼い娘と息子のために残そうと思っただけで、本として出す考えはまったくなかった。しかし光陰矢の如し。二五年が経ち、子どもたちも無事に成長し、私も閔香淑も充分長生きしたこと。また二〇一五年の無罪判決と二〇一九年六月の文在寅大統領から国家を代表しての謝罪の言葉まで受けるにいたって、恥ずかしい内容ではあるが私はこれを本として出版しようと思うようになった。 この本の出版にあたり元の原稿に少しだけ加筆しながら何度か読み返すと、私が獄中で知り合った多くの先生方の面影が浮かんでくる。先生方とともに過ごした日々、交わした話、その時の表情までも思い出される。もう大半の方々はお亡くなりになったことだろう。祖国の民主発展と統一を願って熾烈に闘い、人知れず逝かれた無数の方々がおられる。また獄中で数十年の歳月を耐えてこられた方々もおられる。そんな先生方の生き姿の一場面がこの本を通じて映し出されたら、この本の出版の意味があると言えるかも知れない。 |
書評掲載情報
2021-06-25 週刊金曜日 1334号
評者: 「きんようぶんか」著者インタビュー・聞き手=栗原佳子(『新聞うずみ火』)
2021-06-24 朝日新聞 夕刊 大阪本社
評者: 武田 肇 |
著者プロフィール
李 哲 (イ チョル) (著)
1948年熊本県出生。1972年中央大学商学部卒業。 1975年12月高麗大学大学院政治外交学科在学中に中央情報部に連行され、「在日留学生捏造スパイ事件」で投獄。1,2,3審で死刑判決。
1988年10月に13年間の獄中生活を経て出所、翌年帰日。1990年在日韓国良心囚同友会結成、代表。
2015年11月再審無罪確定。2018年12月第3回「民主主義者金槿泰賞」受賞(在日韓国良心囚同友会)。2019年6月文在寅大統領より謝罪の言葉を受ける。2020年から「ウリ民主連合」会長。訳書『完全なる再会』(金ハギ著、影書房、1993年)、 『くすりの手』(文益煥著、新幹社、1999年)。
大阪生野区在住。 |
|